コラム
明治期の千總は、刺繍絵画や友禅製品において数々の受賞を重ねましたが、その華々しい功績には多くの画家の協力が不可欠でした。画家との繋がりは、現在株式会社千總(以下、千總)に所蔵される絵画や友禅裂などの美術工芸品だけでなく、文書でも確認することができます。本コラムでは、シリーズで明治・大正時代の決算報告書類に登場する画家を紹介し、試みに当時の千總または京都の美術工芸業界のネットワークを改めて整理することを目指します(決算報告書類についての説明はこちらをご覧ください。)。 第5回は、岸連山の息子で、岸派の日本画家の岸九岳(きしきゅうがく)です。九岳と千總とのビジネス…
千總の商売と文化を育んだ、京都の三条室町。当研究所では地域と千總の関係性への理解を深めるために、土地や建物、行事など町に関係する資料を調査しています。これまでの調査で、江戸時代に現在の千總ビルのほぼ同じ敷地にたっていた、京町家の建築資料が確認されました。そして、そのなかの江戸時代の図面と建築仕様書について取り上げる講演会「千總・西村家の町家図面を読み解く-近世京町家の造りと暮らし-」が、2月16日に開催されます。本コラムでは、講演会で取り上げる資料について少しご紹介したいと思います。 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、現在の千總本店は1989年に完成した鉄筋コンクリー…
株式会社千總(以下、千總)所蔵の版本には、今尾景年『景年花鳥画譜』をはじめとした多数の画譜、すなわち絵手本が含まれています(『景年花鳥画譜』についてはこちら)。図書紹介の第4回目は、それらの画譜のうち江戸時代に出版されたものを取り上げてご紹介します。 画譜の出版(Fig.1) 上田公長『公長画譜』4冊、1834(天保5)・1850(嘉永3)年 国内における画譜の出版は、江戸時代、中国からの画譜の輸入をきっかけとして始まりました。その出版の理由について、例えば1834(天保5)年刊『公長画譜』にはこう書かれています。 古人云ルアリ、画ハ声ナキノ詩也、詩ハ…
明治期の千總は、刺繍絵画や友禅製品において数々の受賞を重ねましたが、その華々しい功績には多くの画家の協力が不可欠でした。画家との繋がりは、現在株式会社千總(以下、千總)に所蔵される絵画や友禅裂などの美術工芸品だけでなく、文書でも確認することができます。本コラムでは、シリーズで明治・大正時代の決算報告書類に登場する画家を紹介し、試みに当時の千總または京都の美術工芸業界のネットワークを改めて整理することを目指します(決算報告書類についての説明はこちらをご覧ください。)。第4回は、画家だけでなく国学者としても活動した、榊原文翠です。千總には、文翠が下絵を手掛けたとされる友禅裂が多く現存していますが、…
図書紹介の第3回目は、株式会社千總(以下、千總)に遺るちりめん本をご紹介します。 ちりめん本とはちりめん本と聞いて皆様はどんな本を思い浮かべるでしょうか。着物に親しまれている方なら、すぐさまあの凹凸が特徴的な生地の縮緬を想像されるかもしれませんが、それも間違いではありません。ちりめん本とは、浮世絵と同じ技法で印刷された紙に縮緬のような凹凸が出るように加工を施し、製本したものを指します。 ちりめん本の紙(crape paper, Fig.1)をご覧いただくと、細かな凹凸の筋が縦・横・斜め方向に走っているのがお分かりいただけると思います。挿絵は一般的な木版多色刷の浮…
明治期の千總は、刺繍絵画や友禅製品において数々の受賞を重ねましたが、その華々しい功績には多くの画家の協力が不可欠でした。画家との繋がりは、現在株式会社千總(以下、千總)に所蔵される絵画や友禅裂などの美術工芸品だけでなく、様々な文書資料でも確認することができます。本コラムでは、シリーズで明治・大正時代の決算報告書類に登場する画家を紹介し、試みに当時の千總または京都の美術工芸業界のネットワークに対する理解を改めて深めることを目指します(決算報告書類についての説明はこちらをご覧ください)。第3回は、近代大和絵の画家である川辺御楯と、岸派の画家の森春岳です。千總に現存する資料から、御楯は友禅下絵の提供…
図書紹介第1回「千總と近世文化 」に続き、今回は団扇本(うちわぼん)のご紹介をいたします。残暑の厳しい折、お手元の団扇で扇ぎながら、近代の団扇デザインに触れてみるのはいかがでしょうか。 千總の団扇本株式会社千總では多数の図書資料を所蔵していることは前回ご紹介したとおりですが、その中でもまとまった一群を形成しているのがこの団扇本コレクションです。蒸し暑い日本の夏を過ごす上で欠かせない団扇ですが、団扇本はそんな団扇のデザインをまとめたスクラップ帳を指します。 団扇の形をした絵といえば室町時代の水墨画家・雪舟が描いた「団扇形倣古図」が著名ですが、団扇本に集められた団扇…
明治期の千總は、刺繍絵画や友禅製品において数々の受賞を重ねましたが、その華々しい功績には多くの画家の協力が不可欠でした。画家との繋がりは、現在株式会社千總(以下、千總)に所蔵される絵画や友禅裂などの美術工芸品だけでなく、文書でも確認することができます。本コラムでは、シリーズで明治・大正時代の決算報告書類に登場する画家を紹介し、試みに当時の千總または京都の美術工芸業界のネットワークを改めて整理することを目指します(決算報告書類についての説明はこちらをご覧ください。)。第2回は、近代の京都画壇を代表する画家のひとりである望月玉泉と、京都における洋画・油絵の草創期を切り拓いた画家の田村宗立です。&n…
千總では、友禅染の図案や法衣類の制作資料とするために集められたと思しき多数の図書を所蔵しています。その具体的な内訳については現在調査を進めている最中ですが、多くは江戸時代から明治時代にかけて出版されたもので、染織関連の版本資料として代表的な小袖雛形本をはじめとして、浮世草子、俳諧書、画手本、近代の博覧会図録など、多種多様な図書が確認されています。 とくに版本資料は近世の文化を広く網羅するラインナップとなっており、これらの図書から得られた知識が千總のものづくりに活かされたことが想像されます。千總に所蔵される図書資料を大正から戦前頃にかけてまとめた目録(『図書部購入台帳』)のうち、入手日…
明治期の千總は、刺繍絵画や友禅製品において数々の受賞を重ねましたが、その華々しい功績には多くの画家の協力が不可欠でした。そして、両者の繋がりは、千總に所蔵される絵画や友禅裂などの美術工芸品だけでなく、文書でも確認することができます。そこで本コラムではシリーズで、千總所蔵の文書のひとつである近代の決算報告書類に登場する画家を紹介します。 千總に現存する近代の決算報告書類は、1876年(明治9)から1879年(明治12)並びに1881年(明治14)から1922年(大正11)までの間、概ね毎年上(前)半期・下(後)半期に分けて作成されたもので、各報告書類の記載項目と名称(「勘定」、「精算表…