活動報告 一覧

中学生向け文化プログラム「きもの科学部」を開催いたします

 千總文化研究所では、昨年度より染織技術を題材とした教育プログラムの開発に取り組んでいます。  着物に用いられる伝統的染織技術には、デザイン構想から完成まで数十もの工程があり、その多くが手仕事による分業で行われています。多様な技術とその背景にある日本の文化は、農学、化学、人文学をはじめとするさまざまな学問分野を内包するだけでなく、より美しいもの、品質の高いものをつくりだすために研ぎ澄まされた職人の創造力と探求心が凝縮されています。  一方、昨今の学校教育の現場では、STEAM教育をはじめ学際的な学びがクリエイティブな人材を育成するものとして注目されています。そうした社会的背…

産学連携事業:前期の絵刷調査の実施

当研究所では2021年度から株式会社千總(以下、千總)に寄贈された絵刷(えずり)の調査を、京都芸術大学歴史遺産学科との産学連携事業のもとに実施しています(事業の詳細はこちらをご覧ください)。絵刷とは、型紙を用いて文様が紙に摺り出されたもので、型友禅をつくる工程において、職人による型紙の彫り具合(彫口)の確認や、型紙管理者の見本などの用途でもちいられるものです。本調査では、絵刷の撮影と調書作成を行い、最終的にはデジタルアーカイブ化を目指します。本年度の前期調査は、6月23日から7月21日の毎週木曜日に実施されました。調査は正課授業の一環として行われ、同学科の増渕准教授率いる文化財科学ゼミに所属す…

同志社大学美学及芸術学科の課外授業

同志社大学美学及芸術学科の課外授業「美学芸術学実地演習II」として、講演を行いました。同学科の2回生20名が参加されました。「千總のものづくり −パトロネージュとイノベーションの歴史−」という演題をいただき、千總が460余年の歴史の中で、どのようにものづくりを続けてきたのか、歴史的背景と地域社会、学問分野や産業界との繋がりを交えて作品写真と共にご紹介しました。また会場には、明治時代と昭和時代に千總が手がけた染織品を展示しました。  千總は、室町時代に僧侶の装束である法衣や寺院を荘厳する打敷などを納める法衣商として、京都で商いをはじめました。詳細は調査段階ではありますが、六条…

3つの染色技法の比較ワークショップ

函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、伝統的染織技術の背景にある、人の創造性・探究性に焦点を当てた2つのワークショップを設計しました。 1月24日は、手描き友禅・手捺染・インクジェットプリントの3つの技法の比較検証です。 千總製の〈束ね熨斗模様小袱紗〉を元に、手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントとの3つの染色技術で、同じデザインを再現した染織品を製作しました。 手描き友禅は、細い筒金の先から絞り出した糊で模様の輪郭線を防染し、輪郭の中の色を筆や刷毛を用いて染色します。 手捺染は、色ごとに型(シルクスクリーン)…

職人技を体験「色づくりワークショップ」

函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、伝統的染織技術の背景にある、人の創造性・探究性に焦点を当てた2つのワークショップを設計しました。1月17日は、そのうちの1つ〈色づくりワークショップ〉を実施しました。伝統的染織技術の一つである手描き友禅の着物制作において、「配色」と呼ばれる工程があります。着物のデザインに用いる色を決める作業で、製作担当者が色見本を貼った「配色伝票」を指示書として職人に渡します。職人はそれらの色を1色ずつ染料を混ぜ合わせて一から作成します。着物によっては、使用する色数は100色を超えます。そこには、色を見極める観察力と多くの経験が必要…

知識構成型ジグソー法から、日本の伝統技術のイノベーションを考える

函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、技術革新と社会的、文化的背景の関係性を深く洞察するため、東京大学CoREFにより開発された授業法である「知識構成型 ジグソー法」を取り入れています。 第8講と第9講では、千總の創業から現代までものづくりの変遷をたどりました。僧侶のための衣装である法衣装束や寺院を荘厳する染織品から、欧米の生活様式に合わせた室内装飾品、着物、ポップカルチャーとのコラボレーションなど、千總の長い歴史と文化は、染織品製作におけるイノベーション の歴史でもあります。第10講では、函館工業高等専門学校の小林淳哉教授より染色の化学的メカ…

京都芸術大学・共同研究事業ー後期の調査実習がはじまりました

 今年度から、千總文化研究所は京都芸術大学歴史遺産学科と覚書を結び、型友禅に関する近現代史料である、絵刷(えずり)の共同調査を開始しました。本調査は、千總が所蔵する絵刷の画像撮影と調書作成を行い、最終的にはデジタルアーカイブ化を目指すものです。弊所指導のもとに、同大学歴史遺産学科の増渕麻里耶准教授率いる文化財科学ゼミ所属の学生が、実際の資料に触れながら、正課授業の一環として調査を行っています。(共同研究事業の詳細は過去の活動報告でご確認いただけます)さて、11月4日より後期調査実習が始まりました。後期からは、前期の3回生9名に加えて、2回生9名が調査に加わっています。後期では、学生を2つのグル…

Visible Thinking 着物から何を感じる?

 函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、伝統文化を主体的に捉え、深く考察する手法の一つとして,ハーバード大学教育大学院のプロジェクト「プロジェクト・ゼロ」で研究された学習法である「Visible Thinking」を取り入れています。  第2講から第4講では,思考ルーチン「See-Think-Wonder」を用いて,着物の写真をさまざまな視点から捉えるだけでなく、そこから沸き出る自身の考えを批判的に見ることで、本質を見抜いていく、そのための基本姿勢づくりを行ってきました。 プログラム第5講では、その基本姿勢の土台の上に、いよいよ着物を本格的に味…

Visible Thinking 小袖から何がわかる?

 函館工業高等専門学校の専攻科1年の授業(担当:下郡啓夫教授)「グローバル・ケーススタディ」では、千總の有形・無形の文化財を紐解く一つの手法として、ハーバード大学教育大学院のプロジェクト「プロジェクト・ゼロ」で研究された学習方法である「Visible Thinking」を用います。 Visible Thinkingとは、定型的な質問を通して,学習の根源に必要である内発的なモチベーションがどこから生まれているのかを確認し、さらにその内発的なモチベーションを起点とした学びを可視化する手法です。学習者が自身の思考を省察することをサポートし、考える力を育てます。 本授業では、3回の講義にわたり3つのル…

染織技術から学問とクリエイティビティ、社会とのつながりを学ぶ ー高校生のための新しいプログラム開発ー

 千總文化研究所は、株式会社千總が所蔵する美術工芸品や同社が制作する製品の染織技術などの有形・無形の文化財を教材として、北海道の函館工業高等専門学校と共にSTEAM教育プログラムの開発を進めています。  人の手仕事による、着物を中心とした伝統的な染織技術は、農学、化学、人文学、史学をはじめとする様々な分野の学問を内包するだけでなく、繊細で創造性に富んだものです。一方で、人の情報処理能力を遥かに超える人工知能でも、到達への道筋が見えていないものが創造性や感性が必要な分野だと言われています。 伝統的な染織文化がもつ豊かな感性と表現の力を基盤とした創造性育成の方法論を検討することは、次世代…