大阪教育大学附属天王寺中学校✖️千總文化研究所  ~着物を題材とした教科横断型授業~

大阪教育大学附属天王寺中学校様からご依頼いただき、着物を題材とした教科横断型授業の取り組みに参画しました。

授業は、2年生の美術科、理科、国語科、家庭科の時間で全10回にわたり、着物のデザインと色、着物の着こなし等を、観察、実演、実習を交えて行われました。千總文化研究所は、美術科と理科の時間に千總のデザイナーと職人を講師として召喚し、実習のための着物、染色見本、染色材料と道具等を提供しました。

1)美術科① 着物を「見つめる」、デザイナーの仕事を知る

2)理科①色づくりについて職人から学ぶ

3)理科②見本の色を再現する

4)国語科①言葉の意味の違いに気付く

5)国語科②名も無き色に名前を付ける

6)美術科②着物を「見つめ直す」

7)家庭科①身に纏うものの日常と非日常を考える

8)総合①各教科の振り返りをつなげて考える

9)総合②各教科による視点を自己分析する

(実施日:2023年2月20日、21日、22日、27日、3月2日、6日)

 

美術科の時間には千總製の着物を教室に展示して、まじかで見たり触ったり、着用してみたりして、感覚を働かせて着物を観察をしてもらいました。

その上で、千總のデザイナーである今井淳裕さんから、千總のものづくりとデザインの仕事について話してもらいました。

 

生徒さんたちは、「遠くから見たら、デザインがすごいな、と思うけど、近くで見ると細かい技術がわかる」「生地の触り心地は同じだけど、厚さが違うようだ」など、熱心に観察をしていました。

 

続く理科の時間では、着物の色づくりについて千總の手描き友禅職人である阿部知子さんからレクチャーが行われました。手描き友禅では、着物のデザインに用いる色を決める「配色」と呼ばれる工程があります。企画担当者が着物に使う色のイメージと色の見本を友禅の職人に渡します。職人はそれらの色を見極め、染料を混ぜ合わせて一色ずつ一から作ります。

阿部さんには、仕事をする中でどのように色を考え、着物を作っているのかといった話と、色づくりの実演をしてもらいました。

 

「まだ見本の色より派手だね」「赤みが少し強くなりすぎたね」「染料が乾くと色が変わるから」と言いながら、染料液を筆先に少し付けて色を混ぜては生地に試し塗りをして色を確かめ、少しずつ見本の色に近づけていく様子に、生徒さんたちは興味津々。

 

そして2回目の理科の時間、阿部さんがレクチャーで用いたものと同じ道具と染料を使って、生徒さん自ら色づくりに挑戦されました。

黄・赤・黒の3つの染料を使って作られた黄色とオレンジの2色の見本と同じ色を、4人1組のチームで作ります。少しずつ染料を足して、濃くなりすぎたら水を足して・・・そうこうするうちに容器から染料が溢れそうになってしまうチームも。

なかなか苦戦されている様子でした。

職人の技術を見るだけでなく、実際に体験することで、色を再現することの難しさや、色の見方、考え方を知り、また普段の学校の授業では使用することのない材料や道具に触れることで技術や素材の面白さを感じていただけたのではないかと思います。

 

国語科の授業では、千總のきもの作りの「配色」で使用される色見本帖が題材になりました。

色見本帖は、過去に千總が染めた着物の裂地を同系色に分けて保管されているもので、見分けがつかないほどに微細に異なる色が貼り並べられています。

1回目の授業で、1つの言葉に含まれる複数の意味合いを言葉にし、それぞれの言葉でしか表現できない事柄を考察した上で、2回目の授業で千總の色見本帖にある色に名前をつける課題に取り組まれていました。

生徒さんの振り返りの中には、「言葉があることで分類することができたのが面白かった」「言葉をたくさん知り、それに合った物事を分類できるようになると、言葉を正しく使える」「じっくりみてみると少しずつ色の濃さや色の種類が違っているような気がした」といったコメントが寄せられ、言語化することで思考が深まる様子が窺えました。

 

2回目の美術科の時間では、1回目と同じ着物を再度観察しました。

さらに、同じ模様を手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントの技術で染めた3種類の染色見本を比較してもらいました。

1回目では気づかなかった点や改めて気になった点をタブレットで写真を撮り、どのような技術なのか、どのような意味があるのかを考察し、熱心にコメントを付けていました。

また3種類の染色見本については、「(模様に見られる)色の明るさの差が大きい」「(地色の赤が)こっちはオレンジっぽい、あっちはより赤っぽい」といった、理科と国語で学んだ視点を活かした意見もみられました。

 

家庭科の授業も参観させていただきました。

先生の御祖父母様のお着物を日常着の例として、生徒さんは触れたり着用したりしながら、美術科の時間に観察した千總製の着物との違いを考察していました。

先生からは、着物にも洋服と同様に、素材や装飾によってフォーマルとカジュアルがあること、TPOに合わせて着こなしを変えておしゃれを楽しむことができる、ということを伝えられていました。

大阪教育大学附属天王寺中学校様におかれては、4つの教科を横断しながら、観察して体感すること、言葉にすること、異なるものを比較しながら自分ごととして捉えるといったプロセスを丁寧に積み重ねて、着物やものづくり、色と表現について理解を深めるプログラムを構成いただきました。

今後も当研究所は、着物の染織技術や文化を題材とした教育プログラムの創出や参画を通して、創造力豊かな人材育成に寄与していきたいと考えています。

 

文責:加藤結理子

 

本取り組みは、岡山大学大学院「CRE-Lab.創造性フォーラム2023」にて発表されました。

千總文化研究所✖️大阪教育大学附属天王寺中学校 4教科(家庭科、国語科、理科、美術科)「学びをつなぎ、おもしろがれる生徒と先生~多教科の視点から着物をみつめる~」

 

なお、2回目の美術の授業で使用した手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントの技術で染めた3種類の染色見本は、2021年度函館工業高等専門学校様との取り組みにおいて製作されました。詳しくは、こちらをご覧ください