「きもの科学部〜きものを科学的に探求しよう!〜」実施報告2

千總文化研究所は今年の10月から12月にかけて、「きもの科学部〜きものを科学的に探求しよう〜」と題して中学生向けの文化プログラムを実施しました。

 文学、農学、工学、染色デザイン等の専門家が倶楽部の指導者となり、着物に描かれた植物や和歌、着物のデザインや色のほか、染色技術を中学校の各教科と結びつけながら、きものを様々な視点から深く体系的に学ぶプログラムです。座学だけでなく、教育工学の専門家によるワークショップを交え、分野横断型の学びを通じた子どもの想像性・創造性の育成を目指します。

「きもの科学部」のプログラム趣旨・概要についてはこちら

 

今回は、11月と12月に開催された第3回~第5回の実施報告です。

 

第3回 「着物に描かれているものは? (1)」

日時:11月20日(日)午前10時~12時

講師:木島温夫(滋賀大学名誉教授・農学博士)、下郡啓夫(函館工業高等専門学校)

日本のきものには、多くの植物模様が描かれ、きものの色の襲ね方 にも植物の名前が使われてきました。

そこには、植物の特性や厳しい自然環境の中でも逞しく美しくある生命力への畏敬や憧れが込められています。

 

本回では、まず身近な植物に改めて関心を持てるように、「見ているようで見ていないものを知る」ためのワークショップが下郡教授より実施されました。コンビニエンスストアの看板や誰もに馴染みのある商品に使われている色や文字など、いつも見ているにも関わらず、いざその色と形を正確に思い出せなかったりします。そこから、注意深く観察することの重要性への気づきを促します。

事前課題として植物を実際に観察して写真を撮影してきてもらい、とその気づきをグループワークで発表してもらいました。「花の色はどこから来ているのだろう?」とか「食べた柿の種を植えたら、驚くほどのスピードで大きくなったのはなぜなんだろう?」など疑問が出されました。

木島先生からは、麻、松、桜、桐など着物によく描かれる植物の生態とともに、植物が人々の生活にどのように生かされてきたのか、歴史の中で日本人は植物とどのような関係を築いてきたのか、について講義いただきました。

 

第4回 着物に描かれているものは? (2)

日時:12月4日(日)午前10時~12時

講師:横山恵理(大阪工業大学准教授・文学博士)、下郡啓夫(函館工業高等専門学校)

第4回は、文学をテーマにきものを探求しました。

前半のワークショップでは、文芸を主題とする江戸時代の小袖を観察を行いました。Visible Thinking(注1)の思考ルーチン「See-Think-Wonder」を用いて、何が描かれていて、何を表しているのかを導き出しました。

その上で、『源氏物語』や『伊勢物語』の一場面が小袖の中に様々なモチーフとして表されていること、デザイン化された文字で表された和歌の意味と模様との関係を横山先生より解説いただきました。

日本の文化芸術は、様々な鑑賞の楽しみや解釈の幅を与えるものであることを学びました。

日本の文芸の中でも、和歌は教養であると同時に、愛する人や家族への気持ちや旅先での思い出を表すコミュニケーションツールでした。

後半のワークショップでは、4つの和歌のルールを用いて子どもたちは自分自身の和歌を創作にチャレンジしました。

① 掛け詞:同音異義語

②見立て:〇〇は、▲▲のようだ

③折句:五・七・五・七・七のそれぞれの頭文字に、読みたい言葉を入れる

④本歌取り:昔の和歌や物語をアレンジしたもの

参加者からは、和歌を作るのは難しかったが自分との向き合う時間だったといったコメントも見られ、言葉の表現力と文芸の世界の探求を楽しんでくれたようでした。

 

 

第5回 デザイナーってなにをつくる人?

日時:12月17日(土)午前10時~12時

講師:今井淳裕(株式会社千總製作本部・デザイナー)、下郡啓夫(函館工業高等専門学校)

デザインすることは、何かを描くことに留まりません。アイディアを組み立て、可視化し、人に伝える仕事でもあります。

作品を構成する要素が、見え方や感じ方にどのように影響するのか、を下郡教授よりグループワークを交えて学んだ後、千總の着物を手掛ける今井氏より、デザイナーの仕事が解説されました。

 

会場には、千總の着物が展示され、今井氏よりそれぞれどのようなコンセプトがあり、それが着物の色やデザインの中でどのように表現されているのかが説明されました。

後半のワークショップでは、子どもたちはデザイナーになったつもりで着物のデザインにチャレンジしました。

「どんな着物を想像しますか?」「誰にきてもらいたい?、もしくは自分自身?」「どんな場所や季節で着るのが良いですか?」などといった、コンセプトシートと、デザインのイメージを完成させました。

第1回から第4回まで学んだことを積極的に取り入れ、講師の想像を超える個性豊かな作品が出来ました。

 

子どもたちにとって、これまでより少しでも「きもの」が身近なものになっていれば、と思います。

今後も、「きもの」を切り口に様々な学問のつながりや文化の成り立ちを学び、創造力・想像力を育むプログラムの開発に努めて参ります。

(文責:加藤結理子)

注1)定型的な質問を通して、学習の根源に必要である内発的なモチベーションがどこから生まれているのかを確認し、さらにその内発的なモチベーションを起点とした学びを可視化する手法。学習者が自身の思考を省察することをサポートし、考える力を育てます。ハーバード大学教育大学院のプロジェクト「プロジェクト・ゼロ」で研究されました。