産学連携事業:2023年前期の絵刷調査の実施

当研究所では、2021年度より京都芸術大学歴史遺産学科と株式会社千總(以下、千總)との覚書のもとに、産学連携事業として絵刷(えずり)の調査を実施しています(本事業と絵刷の詳細はこちら、過去の調査の様子は活動報告でご確認いただけます。)。調査は同学科の増渕麻理耶先生ゼミ所属の学生さんが主体となって行われるもので、絵刷の撮影と調書の作成を実施しています。

 

授業の様子   

 

このたび、本年度の前期の調査が実施されました。調査では、事前に同学科での撮影実習および当研究所による絵刷や型友禅に関する講義を行った上で、6月8日、15日、22日、7月13日の計4回で絵刷表裏の撮影を行いました。参加した学生さんは新3回生および大学院1回生をあわせて7名で、撮影した絵刷は、冊子4冊にわたる352カットでした。後期では、前期調査で撮影した絵刷本紙に対して調書作成を実施する予定です。

ところで、本年度は絵刷調査が開始されてから3年目の調査です。過去2年では、毎年ほぼ全ての学生さんが入れ替わっていましたが、本年は過去の調査を経験した複数の学生さんが参加しています。そのため、カメラのセッティングなどの作業の効率化が図られていました。他方で、絵刷の内容や文化財の撮影について、学生さんが関心を寄せていたようで、その熱心な様子を授業アンケートなどからうかがうことができました。

 

 

絵刷冊子72第24紙 四君子草花(上)表(下)裏(大正2年12月 小阪善太郎) 

 

その他にアンケートで散見された意見は、絵刷の材料や成立背景に関するものです。どのような色材を用いたのか、特定の色材の滲みが著しい理由はなにか、なぜ特定の模様が多いのか、当時の文様の流行はどのようなものであったか―学生さんは4回の調査で実資料に触れる中で、多くの疑問を感じ取っていました。

 

絵刷冊子123第66紙 バラ(大正12年2月 小林) 

 

後期調査では、絵刷の裏面の墨書の解読を含む調書の作成を通して、各絵刷本紙に注目することになります。

前期に抱いた疑問をきっかけにして、学生さんが絵刷や近代美術工芸品に対する理解を深める―それだけでなく、最終的に文化財保護や広く資料研究の面白さを知ることができるよう、引き続き調査に取り組んでまいります。

 

(文責:小田)