[コラム]図書紹介11:文様集(2) *会員限定*

本コラムシリーズでは、株式会社千總に遺る版本や図書類をテーマごとにピックアップしてご紹介しています。今回は前回に引き続き、紋や文様にまつわる書籍を取り上げます。

 

伊達紋の愉しさ

Fig.1~3『百撰ひな形』出版年不詳

『百撰ひな形』に掲載された着物の文様は、大柄で背の上部に大きなモチーフが配置されているのが特徴です。ここは本来であれば家紋を入れる紋所ですが、それよりもはるかに大きく華やかな文様が表されていることがお分かりいただけると思います。

このような装飾を目的とした紋は伊達紋とよばれ、役者や市井の遊び人が好んで用いたものと考えられます*。それは家紋の役割である、家系や所属を示すという機能からは離れ、歌や季節の風景をイメージ化し華やかさを添える役割を担っています。伊達模様は1688(貞享5年)出版の雛形本『友禅ひいながた』にもみられ、伊達紋専門の雛形本も複数出版されるなど、かなりの流行をみたようです。

本書は出版年が分かっていませんが、近代の復古主義に伴い制作された雛形本であることが推測されます。

 

幾何学文様の広がり

Fig.4『新形小紋帳』1824(文政7)年序

幾何学模様で構成されたこれらの文様はおそらく型染によって染められたものでしょう。具象的なモチーフを表した『百撰ひな形』の文様とは趣が異なりますが、洗練された魅力があります。各文様の隣にはそれぞれの小紋柄の基本となる図形が描かれます。例えばFig.4右上「さくらわり」の柄は正六角形の組み合わせにより構成されています。大きな六角形をもとに六芒星を描き、それぞれの先端を少しずつ重ねることで隙間に小さな正六角形が生まれます。そしてそれぞれの六芒星を桜に見立てて蕊を加え、シンプルながらも季節感を演出した文様が生まれたのです。

『新形小紋帳』のページを繰ると、結晶を顕微鏡で覗いたかのような文様が並び、それぞれの文様が無限の広がりをもつように感じられます。

 

このような幾何学的な文様構成は様々な書籍で紹介されています。

Fig.5~7『諸職雛形』1881(明治14)年

『諸職雛形』では家紋(Fig.5,6)や繰り返し文様(Fig.7)の作図方法が図示されています。家紋が自然の動植物や人工物をモチーフとしながらも、直線や円、幾何学図形などの組み合わせにより作図されていることがよくわかります。個人の美的感覚を排し、手順を踏めば誰でも同じ紋を描くことができるという点が、家紋という文化が現代まで続いた理由の一つなのかもしれません。

 

地紋の美

Fig.8,9『地紋図式』梅原新七画、1777(安永6)年

さて、小袖や着物に表される文様としては、染め文様のほかに織文様もあります。『地紋図式』は生地の織文様、すなわち地紋を集めた図案集です。家紋にもみられる沢潟、雁金のほか、花唐草や藻に貝尽くしなど絵画的な文様もあります。多くの場合、小袖模様雛形本には生地の地紋まで指定されることはありません。しかし実際に小袖や着物を仕立てる場合、地紋もその仕上がりへ大きく影響します。おしゃれにこだわる女性たちは、染めや刺繍による上紋と織りによる地紋をコーディネートしてこだわりの一着を仕立てたのでしょうか、想像が膨らみます。

 

 

[註]

*沼田頼輔『日本紋章学』新人物往来社、1977年

 

 

第1回「千總と近世文化

第2回「団扇本

第3回「ちりめん本

第4回「江戸時代の画譜

第5回「名所図会

第6回「武具図解本・目利本

第7回「小袖雛形本

第8回「有職故実書

第9回「女子用往来

第10回「文様集①

 

(文責 林春名)