調査報告会「井波別院瑞泉寺所蔵 法衣装束・荘厳具について」
千總文化研究所では、千總の前身となる千切屋が東本願寺の法衣装束を商っていたことから、2018年より真宗大谷派にまつわる染織資料の調査を進めています。
2022年度は富山県南砺市の真宗大谷派井波別院瑞泉寺に所蔵される染織資料326点の調査を行いました。3月3日に開催した調査報告会では、本調査で確認された資料の概要や、そこから明らかになる井波別院瑞泉寺所蔵法衣装束・荘厳具(打敷や水引などの堂内装飾具)の特質についてご報告いたしました。
報告会の記録動画は、会員ページよりご視聴いただけます。
[開催概要]
日時:2023年3月3日(金)午後2時~4時20分
開催形式:会場参加(株式会社千總本社5階ホール)・後日動画配信
[内容]
ごあいさつ
千總文化研究所 所長 加藤結理子
基調講演「井波別院瑞泉寺と周辺地域の信仰―聖徳太子信仰を中心として―」
真宗大谷派教学研究所 研究員 松金直美先生
調査報告
「井波別院瑞泉寺所蔵 法衣装束・荘厳具について」
千總文化研究所 研究員 林春名
「調査資料にみられる法衣商の名称等について」
京都文化博物館 学芸員 林智子
「姫路船場・本徳寺に伝来する蔦印の法衣」
中世日本研究所 研究員 宮尾素子
「打敷から想像される小袖の再現」
中世日本研究所 所長 モニカ・ベーテ
質疑応答
閉会
報告会前半では弊所所長 加藤より、調査資料の概要をご説明しました。そして瑞泉寺にこれほどの法衣装束・荘厳具が所蔵されることとなった背景を探るため、真宗大谷派教学研究所 松金直美先生より、瑞泉寺を中心として盛んであった聖徳太子信仰について基調講演をいただきました。基調講演では、瑞泉寺で現在も行われる太子伝会における絵解きや南無仏太子像を取り上げながら、井波別院瑞泉寺の信徒衆と同寺周辺で盛んな太子信仰がいかにして形成されたかについてご紹介いただきました。
後半では、弊所研究員 林より、調査で確認した資料にみられた文様や資料にまつわる人物関係等について報告を行いました。加えて、共同研究者として調査にご参加いただいた京都文化博物館学芸員 林智子様、中世日本研究所研究員 宮尾素子様、中世日本研究所所長 モニカ・ベーテ様より、それぞれ過去の大谷派法衣装束調査の結果も交えつつ、瑞泉寺に遺された染織品の特質についてご考察をいただきました(過去の調査についてはこちら:真宗大谷派の法衣装束の調査報告会・研究会)。
質疑応答では、真宗大谷派寺院の住職の側室として上賀茂神社などの社家の女性が迎えられたため、文様にもその影響があるのではないかといったご指摘が挙がりました。
また、会場には株式会社千總所蔵の法衣装束関係資料を展示いたしました。会場にてご参加いただいた方には、東本願寺門首の注文による袈裟の雛形や法衣裂帖など、法衣を商っていた千總ならではの資料をご覧いただきました。
今回の調査では五条袈裟56点、打敷52点、畳紙81点などを含む法衣装束・荘厳具319件326点の撮影・採寸・記録等を行いました。法衣装束は近世から近・現代にいたる様々な文様、色、織組織のものがみられ、調査では織の種類や密度も併せて記録しました。こうした情報を整理することで、年代ごとの織組織の変化を研究するための基礎情報となることが期待されます。
瑞泉寺所蔵資料には名称や制作年代、伝来等が墨書として遺されているものもあり、墨書により「本門様」(東本願寺御門主)の装束が瑞泉寺へ伝わったものも少なくないことが分かりました。寺院に限らず、年代や着用者が明らかな染織品がまとまって保存される例は貴重です。中には制作者である法衣商の屋号と所在地が判明するものもあり、その多くが京都の法衣商であったことから、京都(西陣)・東本願寺・各地の別院との間で法衣装束流通のネットワークが形成されていたことが窺えました。
今後もさらなる研究を進め、真宗大谷派の法衣装束・荘厳具にまつわる歴史や技術を明らかにしてまいりたいと思います。
[基調講演 講師プロフィール]
真宗大谷派教学研究所 研究員 松金直美先生
富山県生まれ。大谷大学大学院博士後期課程(仏教文化)満期退学。博士(文学)。
大谷大学文学部任期制助教、同朋大学仏教文化研究所所員を経て、現職。
真宗大谷派擬講。高岡教区安專寺衆徒。同朋大学仏教文化研究所客員所員。
龍谷大学非常勤講師。
主な執筆:
『カミとホトケの幕末維新―交錯する宗教世界―』(共著、法藏館、2018年)
『日本宗教史のキーワード―近代主義を超えて―』(共著、慶應義塾大学出版会、2018年)
「近世近代における聖徳太子信仰の展開-井波瑞泉寺とその周辺地域-」(『教化研究』第166号、2020年) など。
本調査および調査報告会は、公益財団法人ポーラ美術振興財団令和4年度助成により実施いたしました。
(文責 林春名)