産学連携事業:2023年度後期授業における絵刷調査の実施
当研究所は、2021年度より京都芸術大学歴史遺産学科と株式会社千總(以下、千總)との産学連携事業として、同大学の正課授業において絵刷(えずり)の調査を実施しています(本事業と絵刷の詳細はこちら、前期授業の調査はこちらにてご確認いただけます。)。調査には主に同学科の増渕麻理耶先生ゼミ所属の学生が参加し、実際に絵刷に触れながら撮影と調書作成(後期のみ)を実施しています。
後期授業では、2023年10月から11月に計4回の調査を、翌年2月に千總ギャラリーの見学を実施しました。調査には、前期授業に参加した3回生と大学院1回生に加えて2回生を含む計11名が参加し、絵刷撮影のほかに撮影済みの絵刷の調書作成も行いました。事前に教員や当研究所の研究員から指導を行った上で、過去に経験のある大学院生と3回生が撮影や調査を牽引しながら、効率よく作業を進めていきました。
その結果、前期調査からの引継ぎ分も含めて、冊子3冊305枚(610カット)および1冊表面のみ69カットの撮影を完了しました。調書作成では、冊子2冊にわたる129枚について、寸法および紙継の有無など各絵刷の状態を記録できました。
なお、本年の絵刷調査では、明治末から大正期に成立した千總の染色工場、「千總友禅工場」通称「二ノ橋」に関する絵刷が散見されました。同工場は、現在の京都市東山区稲御所ノ内町に設立され、太平洋戦争の前後まで営業しました。しかし、その活動実態は十分に明らかにされておらず、例えば生産されていた製品の記録なども現在確認されていません。本絵刷は二ノ橋の実態の一端を示す資料として貴重であり、今後の調査が俟たれます。
本年の調査報告会は2024年の3月頃に実施予定です。
「二ノ橋」記載の絵刷例:大正8年8月「貝桶大小菊」 用途先:そごう
一方の千總ギャラリーの見学会では、現在開催中の「舞台は御所解」展を鑑賞しました。展覧会には主に近世の小袖が展示されており、学芸員の石田直子氏より、展示の意図を解説いただいた上で、各小袖を鑑賞しました。学生は前期の授業で、絵刷の文様のモチーフの意味等について調べていたために、複数のモチーフの組み合わせにより完成する御所解模様や文学意匠の小袖を興味深く観察していたようでした。
さらに、現在の千總の着物についても、石田氏より説明いただきました。本店に陳列された振袖や着尺を前にして、着物の種類や友禅工程や、それを支える職人に関するお話をうかがい、実際の着物に触れて絞りなどの凹凸のある質感やその肌触りを確かめました。こうした実物の着物を見て触れることが、絵刷の行程を経て完成した型友禅製品が目指した表現や支えた人々に対する理解を深め、さらに日本の染織文化に対する関心を高めることに繋がれば幸いです。
来年度以降も同様の調査を継続し、絵刷の総合的な理解を深めながら、資料の全体像の把握とその活用を目指してまいります。
(文責 小田)