報告会「近代型友禅の表と裏-絵刷調査を通して」
調査報告会「近代型友禅の表と裏-絵刷調査を通して」が、2022年3月28日に開催されました。
明治時代初頭に化学染料が輸入されて以降、京都で盛んに製造された、型友禅染。型紙を用いてあらゆる形を素早く染めるこの技術は、人々に色鮮やかな模様の衣服を届けました。
報告会のタイトルに掲げた「絵刷(えずり)」とは、そうした型友禅染製品の製造過程で生み出される資料を意味し、具体的には型友禅の型紙を用いて模様を紙に摺り出したものです。近年、千總に約14700枚の絵刷が寄贈されました。各絵刷には模様が刷り出されているだけだけでなく、明治・大正期の日付や人名、注文主などの墨書も記されています。千總の友禅製品は明治期から共進会での受賞を重ね、また百貨店などを通して日本各地で販売されたと考えられていますが、成立背景や生産体制については未だ明らかにされていません。したがって、本絵刷資料はその課題解明の一助となる可能性を秘めていると言い換えることができます。
そこで、株式会社千總は2021年度より京都芸術大学との覚書のもと、本絵刷の調査を開始しました。本年度は、同学歴史遺産学科の正課授業の一環として千總文化研究所の指導のもと、学生による絵刷の基礎調査が実施されました(詳しくはこちら)。本事業では、学術利用を想定した絵刷資料のアーカイブ化を最終目標とし、絵刷の撮影と模様や墨書の分析調査を継続的に実施する予定です。
本事業の中間発表の一環として、3月28日に2022年に実施した絵刷調査の報告会を以下の通りに開催しました。
[開催概要]
日時:2022年3月28日(月)14:00~16:30
開催形式:会場参加(株式会社千總本社5階ホール)・オンライン配信 (zoom ウェビナー)
主催:千總文化研究所 共催:京都芸術大学
[タイムテーブル]
1. 報告会の趣旨説明:小田桃子(千總文化研究所 研究員)
2. 基調講演「明治末期・大正期・昭和初期のキモノ‐百貨店による流行の創出に注目して‐」青木美保子氏 (京都女子大学 教授)
3. 発表「産学連携授業の主旨と意義」増渕麻里耶(京都芸術大学 准教授)
4. 報告「各資料の概要説明」京都芸術大学 歴史遺産学科学生代表
5. 発表「絵刷と千總コレクション」小田桃子
6. 質疑応答
本事業の中間発表の一環として、3月28日に2022年に実施した絵刷調査の報告会を開催しました。
本会は本事業における初年度の報告会となります。またテーマに「絵刷」という一般的に馴染みのないものを掲げていることを受けて、本会では調査報告と共に、絵刷の成立背景に関する基調講演を実施しました。
基調講演では、絵刷のエンドプロダクトともいえる型友禅製品の流通に着目して、青木美保子教授より、髙島屋および松坂屋を中心に百貨店が創出した明治末期から昭和初期のキモノの流行についてご講演いただきました。当時の図案や雑誌の記事や写真など、多くの資料を交えた本講演を通して、百貨店が核となって花開くキモノの流行について理解を深めることができました。
学生代表は調査を実施した絵刷冊子(No.2、No.74、No.146)の概要を報告しました。各冊子には約100枚の絵刷が綴じられていますが、報告ではその中から抜粋した計123枚に関して、制作年代、文様などを各冊子ごとに分類した上で、各学生代表から各冊子の特徴と冊子の成立背景についての考察を発表しました。
また会場には調査対象となった絵刷資料や関連する友禅裂の露出展示を行いました。
本会を通して、参加いただいた皆様と様々な情報を交換し、また展示した資料をもとに実践的なご助言を賜るなど、絵刷の調査手法や学術利用に向けての貴重な意見を収集することができました。
他方で、絵刷調査に関して多くの課題も明らかとなりました。皆様からいただいたご助言やご指導を踏まえて、今後も同様の調査を進めてまいります。
本事業を通して、現代まで伝承されてきた型友禅染の発展と後世への継承に、少しでも貢献できることを願っています。
[講師プロフィール]
青木美保子(あおきみほこ)
京都女子大学家政学部教授。博士(学術)(京都工芸繊維大学)。
京都工芸繊維大学大学院 工芸科学研究科機能科学専攻博士後期修了。京都光華女子大学短期大学部、神戸ファッション造形大学などを経て、現職。
日本服飾史およびファッションデザインをご専門に、日本の近代ファッションおよび京都の染織技術に関する調査研究ならびに後進の育成に取り組む。
主な著書に『近代図案帖 寺田哲朗コレクションに見る、機械捺染の世界』(共著、青幻舎、2020年)、『近代京都の美術工芸‐制作・流通・鑑賞』(共著、思文閣出版、2019年)など。
(文責 小田桃子)