しまつの文化―庭園内の土蔵および地蔵堂の調査
京都・三条通に面した千總本社ビルの裏側には中庭があります。
この中庭は当ビルが建て替えられる以前から存在していますが、そのなかにある土蔵と地蔵堂も、折々に手を加えながら同様に引き継がれてきたものです。現在、土蔵は主だって使用されていませんが、地蔵堂と合わせて、往時の商家の面影を今に伝えています。
これまで当研究所では、本社ビルの敷地の歴史に関する調査や講演会を実施してまいりましたが、このたびはこの2棟の建築に関する調査の一環として、京都工芸繊維大学デザイン・建築学系のマルティネス准教授とともに、現状調査を行いました。
建築の概要
土蔵は中庭なかの南西側、地蔵堂はその北西側にあります。
土蔵は、桁行約5.4 m、梁行約8 m、高さ約6.7 m(いずれも外寸)の木造建築です。地上2階・地下1階の切妻造(きりつまづくり)、平入(ひらいり、屋根のてっぺんである「大棟」と平行する壁に入口がある形式のこと)で、入口は北側に面しています。外壁は漆喰塗仕上げです。屋根は本瓦葺で、軒裏に鉢巻(はちまき)を廻されています(鉢巻とは、軒裏を土と漆喰で塗りこめた部分のことで、耐火性能を上げるためにつくられるものです)。鬼瓦には小槌と思われる紋があしらわれています。
入口には、ガラスの下屋(げや、建物から差し掛けてつくられた低い屋根。庇を長くしたようなもの)が付き、扉は観音開きで、周りに三段の掛子塗りを施されおり、内戸は片引きの土戸です。内部は各階ひと部屋で、1・2階の床は板敷、土壁の外側を漆喰塗りに仕上げています。
1階の床面は、地面よりも1 m程度高い位置にあります。窓は、南北面に1面ずつ設けられており、内側には鉄格子がはめ込まれています。各窓の外側には鉄製の扉と小庇が取り付けられています。
2階には、天井が張られておらず、屋根の構造を見ることができます。窓は、西面に1面あり、内側には金網と木製の内戸、外側には鉄製の補強の入った瓦葺の庇が設置されています。
地下室では、床が土床で、壁面部分は石積み、その上部はコンクリートブロック積みです。東西南北に格子つきの開口部が設けられています。
1・2階および地下室の内部に鉄骨によって構造補強が施されており、柱の一部には古材の再利用が見られます。
地蔵堂は、桁行約1.9 m、梁行約1.8 m、高さ約2.8 m(いずれも外寸)の木造建築です。
入母屋造(いりもやづくり)の妻入(つまいり)で、入口は東側に面しています。外回りは南北側が板張り、西側のみ土壁です。地蔵堂の真下にあたる床は、四半敷きのように目地を付けられたコンクリート材で、その周囲は布敷きの敷き瓦とコンクリート材の混在で仕上げられています。柱は丸太材で、それぞれ礎石に乗っています。
北東角の柱の上部には、自然の木材をそのまま貼り付けたような仕様が見られ、また現在は柱の乗っていない礎石が2つ東側の中央に残されています。屋根は銅板葺で、軒裏には、茅を敷き、丸太材を軒桁としています。なお、昭和時代までは茅葺きであったと言われています。
南北側の外壁に縁席、裏側にあたる東側には下地窓、他方北東側の内壁には腰掛や床の間のような張り出しが壁に設えられています。
所見
いずれの建築にも、新旧の部材の混在が見られることから、改修を繰り返しながら、使用されていたことが分かります。
土蔵は、上物の建物よりも、地下室の方が古い仕様である可能性があります。地下室の石積みに御影石のような上質な石が用いられていることも注目に値します。また、上物の建物に設けられた窓や戸口の建具が、建物よりも古い時代のものであると見られます。さらに先述の通り、柱への古材の再利用もみられます。したがって、地下室の石積みを維持しながら、上物の建物を更新していると考えられるのです。
一方、地蔵堂は丸太材や、製材されていない自然のままの木材、下地窓など、茶室を思わせる意匠が印象的です。軒裏に整然と敷設された萱材なども含めて、数寄屋風の建築様式を用いているものと考えられます。ただ、下地窓や床の間のような壁の出っ張り、柱の乗っていない礎石など、今日に使用する際には機能していない意匠が複数あるので、別の目的で建てられた建物を流用した可能性が高いものと思われます。このように地蔵堂に対して、数寄屋風の意匠を取り入れることは一般的ではなく、本建築の大きな特徴です。
こうして古い部材を活用して改修を加え、長く建物を使用し続けるのは、日本の伝統的な木造建築の保存修理とそれを活用する文化でもあります。そうした特徴には、当地で代を重ねながら営んできた、人々の質実な暮らしぶりが垣間見えます。そしてそれは、世代を重ねながらモノを大切に使い続けるための創意工夫を凝らす、京都の「しまつの文化」をあらわしているとも言えるでしょう。
次のコラムでは、土蔵と地蔵堂の歴史について、所蔵資料をもとにひも解いていきたいと思います。
文責:小田桃子

