染織品紹介2:小袖の黒 *会員限定*

 本コラムは株式会社千總ホールディングスに所蔵される染織資料から、日本の染織にまつわる話題をお届けします。今回は江戸時代の小袖に用いられる「黒」についてご紹介します。

 

Fig.1〈小袖 萌葱縮緬地春秋草花模様〉(江戸時代後期〔19世紀初期〕)

 染織品は一般的に、絵画や彫刻などの作品に比べて脆弱であるといわれます。人々が生活の中で身に付けたきものや小物などは汗やスレ、破れなどの危険に常にさらされていました。現代までその姿をとどめている小袖や服飾品は、大切に守り伝えられてきた類まれな例であるといえます。

 展覧会などで小袖を観るとき、糸のほつれや生地の破れに気が付かれた方も少なくないでしょう。そのような損傷のなかで、特に多いのが黒く染められた糸や生地の劣化です。

 〈小袖 萌葱縮緬地春秋草花模様〉(Fig.1)は萌葱色の縮緬地に染めや刺繍で松や桜の枝間に御殿や御所車を配した、いわゆる御所解模様の小袖です。刺繍糸は金駒がよく目を引きますが、紫、紅も用いられ、小袖全体を華やかに彩っています。

 しかし、細部に注目すると、下書きの線のような墨描がそのまま見えている部分があります。

 

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