調査報告会「真宗東派本願寺所蔵染織品 調査報告会・研究会」

去る2025年3月18日、千總本社5階ホールにおいて「真宗東派本願寺所蔵染織品 調査報告会・勉強会」を実施いたしました。

千總文化研究所では、株式会社千總ホールディングス(以下、千總)の前身である千切屋惣左衛門が東本願寺の御用装束師をつとめていたことから、2018年度より真宗大谷派にまつわる染織品の調査を進めてきました。

報告会の記録動画は会員ページよりご視聴いただけます。

 

[開催概要]

日時:2025年3月18日(火)午後2時~4時

開催形式:会場参加(千總ビル5階ホール)・後日動画配信

 

[内容]

概要説明 千總文化研究所 研究員 林春名

基調対談「東本願寺法主の衣文化」
  ゲスト:本願寺 法主 大谷 光道氏
  コーディネーター:中世日本研究所 所長 モニカ ベーテ氏
  司会:千總文化研究所 研究員 林 春名

調査報告「東本願寺における袈裟の様式と制作」
  千總文化研究所 研究員 林 春名

質疑応答、閉会

 

東本願寺法主の衣文化

本会では基調対談として、本願寺 第25代法主 大谷光道様、中世日本研究所 モニカ・ベーテ様にご登壇いただき、謎多き東本願寺法主の衣文化に迫りました。法主は宗祖・親鸞聖人の末裔であり、親鸞聖人の教えを継ぎ世に伝える役割を負う存在です。対談の中では、100年近く前の映像や写真を交えながら、東本願寺 24代法主・闡如上人(1903~1993)の幼少期から晩年までの具体的な衣生活を例に、大谷様よりご解説いただきました。

法主をはじめとして僧侶が袈裟をつけ列をなして歩く「御練り」の映像では、単なる衣服ではない、堂内を荘厳する法衣装束の役割が見て取れました。また、上童姿や婚礼の際の五条袈裟には公家・宮家との接近が明確に表れ、東本願寺法主を特徴づける法衣装束となっています。

 
基調対談の様子

 

東本願寺における袈裟

会の後半では当研究所研究員 林より、本願寺(通称:嵯峨本願寺)所蔵染織品調査の成果報告を行いました。調査資料は袈裟をはじめとした法衣を中心に、330点にのぼり、千總の前身である御装束師・千切屋惣左衛門が手掛けたものも20点確認されました。そのうち15点の袈裟(五条袈裟または三緒袈裟)は、現在千總に遺る原寸大の雛形とほぼ一致します。調査報告ではそのうち特に袈裟を取り上げ、動乱の幕末・明治期において、東本願寺法主と幕府や皇室との関係の変化が袈裟に表れていることを指摘しました。

例えば〈雪下色綾地 抱牡丹に三葉葵文様 五条袈裟〉(本願寺蔵)は、東本願寺21代法主・厳如上人と法嗣・現如上人が日光において徳川家康250回忌に参列する際に制作されたという記録が、雛形に記されています。東本願寺は現在の烏丸六条の土地を徳川家康から寄進され、幕末には境内に東照宮が建てられるなど、江戸時代には幕府とのつながりを強く保ちました。しかし、その一方で〈緋綾地 十六葉八重表菊居並び文様 五条袈裟〉(本願寺蔵)には、「維新に際し力を王事に尽した」ために1891(明治24)年に天皇から現如上人へこの袈裟が下賜されたという記録が残ります。幕末・明治期の権力主体と寺院との関係の変化が、法衣装束の文様として象徴的に表れているのです。

 

会場では、ご所蔵者様のご厚意により、本願寺ご所蔵の袈裟と千總所蔵の袈裟雛形のコラボレーション展示が実現いたしました。


会場展示風景

 

【基調対談 登壇者紹介】

ゲスト:本願寺 第25代法主 大谷 光道氏
東本願寺大谷家当主。2005年に真宗大谷派より独立、嵯峨にて真宗東派本願寺を建立、住職を務める。

コーディネーター:中世日本研究所 所長 モニカ ベーテ氏
東洋染織史を専門とし、織り、能、尼門跡寺院などを長年にわたり研究。大谷大学教授を経て、現職。

 

(文責 林春名)