[事業報告会]産学連携事業 令和5年度成果報告会
千總と京都芸術大学は令和3年度に覚書を締結し、千總所蔵の近代資料の調査を進めています。
その枠組みのなかで、当研究所は明治から昭和初期の型友禅染の関連資料「絵刷」の調査を、正課授業の一環として実施しており、本年度で3年目となります。
去る令和6年3月18日に、本年度の事業報告会を京都芸術大学において実施しました。
[実施概要]
日 程:令和6年3月18日(月)13:30~16:00
実 施 形 式:対面及びオンライン配信 (zoom)
主 催:京都芸術大学芸術学部歴史遺産学科/日本庭園・歴史遺産研究センター歴史遺産研究部門
共 催:一般社団法人 千總文化研究所
プ ロ グ ラ ム:
ごあいさつ 趣旨説明
増渕麻里耶(京都芸術大学)
報告:2023年度絵刷調査報告―書物からの図案の引用 に着目して
小田桃子(千總文化研究所)
発表:明治・大正・昭和初期の千總友禅工場
小田桃子(同)
報告:友禅裂に使われた染料の傾向と変遷〜非破壊分析に基づく考察〜
増渕麻里耶(京都芸術大学)
報告:ハイパースペクトルカメラを用いた近代友禅軸染料の反射分光分析
紀芝蓮(東京文化財研究所)
総合討議・質疑応答
司会 木村栄美(京都芸術大学)
前半では、本年度を含めこれまでの絵刷調査の実施報告、および明治から昭和期の千總の友禅工場について、当研究所の小田より報告しました。(絵刷調査の詳細は、こちらからご確認いただけます。)
絵刷調査の実施報告では、本年度までの調査成果と墨書分析の中間報告を行いました。具体的には、本年度までに12冊1282枚の絵刷本紙の撮影、そのうちで613枚の採寸と調書作成がそれぞれ完了し、未撮影分を含む1390枚の絵刷に記された墨書を、当研究所が主体となって解読しました。さらに解読した墨書を集計した結果、明治39年~大正15年・昭和12年の制作年、75名の型彫工および考案家(図案家)等の人名、13種類の染工場の名称、56種類の百貨店や陳列会等の用途先を確認しました。
報告では絵刷の活用事例として、絵刷にあらわされた図案の書物特に洋書との関係を示すべく、イギリスとドイツの書籍からの図案の引用または応用事例について論じました。
次に明治・大正・昭和初期の千總友禅工場の発表では、千總の友禅工場である「二ノ橋」と、それ以前に成立していた明治期の千總の染工場について、工場規模や生産品等について紹介しました。
洋書からの引用例:絵刷冊子50―9「縫取唐花鳥」 大正3(1914)年5月
引用元の洋書掲載図版:Herta Koch作刺繍, Stickerei – Zeitung und Spitzen – Revue 1913年4月1日記事
後半では、近代資料の調査の一環として実施された、千總所蔵の友禅見本裂の染料の非破壊分析調査の実施報告が行われました。
増渕氏(京都芸術大学)は、明治・大正・昭和初期の制作年がのこる友禅裂合計17点に対して実施した、分光光度計やマイクロスコープなど複数の理化学機器による染料の科学分析の結果を報告した上で、近代日本の合成染料導入の歴史と照合しながら、友禅裂における使用染料の変遷に関して考察しました。
一方の紀氏(東京文化財研究所)は、増渕氏が扱った友禅裂のうち3点を対象に実施したハイパースペクトルカメラによる染料分析結果を報告しました。報告では、調査対象の裂のうち、同様の浮世絵美人図文様と色で明治39年と昭和2年に作られた友禅裂に着目し、目視では同様の色の両者間における分析結果の差異から、染料の変容の可能性について指摘しました。
質疑応答と総合討議では、染料分析や近代における千總の型友禅製品の生産状況などについて質問がありました。
千總友禅は様々な技術や情報が流入する近代以降に図案や染料の変化を重ねながら、現代に伝わりました。
いまだ、その変容の実態は十分に明らかにされていませんが、このたびの絵刷調査や分析調査がその一端を明らかにするものと考え、今後も同様の調査を継続する予定です。
(文責:小田)