調査報告会「真宗大谷派染織品調査報告会・勉強会」

去る2024年1月24日、千總本社5階ホールにおいて「真宗大谷派染織品調査報告会・勉強会」を実施いたしました。

千總文化研究所では、株式会社千總(以下、千總)の前身である千切屋惣左衛門が東本願寺の御用装束師をつとめていたことから、2018年より真宗大谷派にまつわる染織品の調査を進めています。本会は2023年度に行った真宗大谷派妙誓寺調査のご報告として行ったものです。

なお、本報告会では京都府京都文化博物館を中核とした令和5年度文化庁Innovate MUSEUM事業における成果物を使用ししました。

報告会の記録動画は会員ページよりご視聴いただけます。

 

[開催概要]

日時:2024年1月24日(水)午後2時~4時10分

開催形式:会場参加(株式会社千總本社5階ホール)・後日動画配信

 

[内容]

ごあいさつ

  千總文化研究所 所長 加藤結理子

基調講演「袈裟と有職織物」

  京都国立博物館 学芸部企画・工芸室長 山川 曉先生

調査報告「御装束師・千切屋總左衛門の活動―真宗大谷派妙誓寺所蔵法衣装束および千總所蔵資料を例に―」

千總文化研究所 研究員 林 春名

質疑応答

閉会

 

 

袈裟と有職織物

本会では基調講演として、京都国立博物館学芸部企画・工芸室長 山川曉先生よりお話を賜りました。ご講演では、日本に伝来したのちその性質を変化させた袈裟について、天皇家や公家の有職織物との関わりを絡めてご解説いただきました。

真宗大谷派における袈裟や装束には有職織物と様式が共通する織物が多く使われます。しかし、仏教集団の生活規範である律において、袈裟は人が捨てて顧みない古い布の小片をつなぎ、壊色(えじき)に染めたものとされています。正倉院に遺る聖武天皇遺愛の袈裟は、壊色の袈裟や端切れを寄せ集め運針でつないだもので、このような律衣の様式を引き継いでいます。しかし犍陀穀糸袈裟の名で知られる空海諸伝の七条袈裟は一見律衣の袈裟に似ていますが、裂の縫い継ぎや運針はこれを模した織りによって表現されています。

さらに、有職風の織物や舶来の金襴を用いて紋を表した袈裟が後白河法皇や花園法皇の肖像にみられます。14世紀末に編まれた『法体装束抄』にも有紋の織物を用いた袈裟や装束の記述が確認でき、有職織物と法衣との間の接近が見て取れます。

真宗においては、江戸時代初期に本願寺が門跡寺院に列せられ、公家から正室を迎えるなど密接な関係をもつようになったことで宮中の装束で用いられた有職織物が袈裟にも用いられるようになったのではないかと考えられます。

 

基調講演の様子

 

装束師としての千切屋惣左衛門

会の後半では弊所研究員 林より、真宗大谷派妙誓寺所蔵染織品調査の成果報告を行いました。

報告内では、真宗大谷派の法衣装束における織組織の傾向や、紋の配置の特徴について説明したのち、調査において確認された千切屋總左衛門製品を参照しつつ「御装束師・千切屋惣左衛門」の活動実態に迫りました。千總には東本願寺に納めた袈裟の原寸大雛形や、身の回りの染織品の御用を請け負った際の資料が遺されています。そうした資料からは、千切屋が発注方とやりとりをしながら一点一点の御用品を丁寧に制作していたことが窺えます。

 

呉服師としての千切屋惣左衛門

千切屋惣左衛門が「呉服師」の肩書を名乗ったことはいまだ確認されておりませんが、大名の衣服を調える呉服師としての仕事も行っていたのは確かなようです。千總には、惣左衛門が御用を務めた赤穂藩森家の染織品の発注や制作に関する資料が遺されています。大紋と呼ばれる袖付きの裃の形をした装束や陣羽織の雛形、森家の家紋である鶴丸紋の紋本など、いずれも武家の呉服師の仕事が窺える貴重な資料です。

また、森家方の上洛の際に宿を調達するなどの「京都用向」を行ったことも古文書資料から知られます。単なる呉服師にとどまらず、京都における世話全般を請け負うことができた背景には、創業以来400年以上京都において商売を続け、東本願寺をはじめとした寺社とも強い関わりをもった千切屋ならではの事情があったのでしょう。

 

「大紋雛形(肩衣)」(文化13年〔1816〕)

 

また、会場には株式会社千總所蔵品から法衣装束関係資料・赤穂藩森家御用関係資料を展示し、僧侶だけではなく武家の御用も行った千切屋惣左衛門の幅広い活動をご紹介しました。

さらに、個人の方のご厚意により、真宗大谷派で用いられた近~現代の装束をお借りし展示させていただきました。当日はあいにくの雪模様でしたが、開場へご参加いただけた方々には注文側と制作側それぞれの品々を間近でご覧いただくことができました。

 

会場展示風景

 

[基調講演 講師プロフィール]

京都国立博物館 学芸部 企画・工芸室長 山川 曉(やまかわ あき)先生

博士(人文科学・お茶の水女子大学)。徳川美術館学芸員を経て、2001年より京都国立博物館にて染織担当研究員として勤務、現職。京都大学人間・環境学研究科総合人間学部客員教授。専門は中世染織史。2010年に企画した展覧会「高僧と袈裟―ころもを伝えこころを繋ぐ」の図録は第23回國華賞を受賞。

主な執筆:

『高僧と袈裟 ころもを伝えこころを繋ぐ』展覧会図録、京都国立博物館、2010年

『中近世染織品の基礎的研究』中央公論美術出版、2015年

「南宗時代における袈裟へのまなざし」『アジア仏教美術論集 東アジアIV 南宋・大理・金』中央公論美術出版、2020年 ほか多数。

 

 

令和5年度文化庁Innovate MUSEUM事業

(文責 林春名)