KCJS(京都アメリカ大学コンソーシアム)プログラム「世界に通じる京の職人」
同志社大学内にあるKCJF(京都アメリカ大学コンソーシアム、運営:コロンビア大学)の授業の一環として、千總の歴史と染織技術について講義しました。「世界に通じる京の職人」がテーマの本授業には、日本語並びに日本文化等を専攻するアメリカからの留学生13名が参加されています。
講義の前半は、千總が460余年の歴史の中でどのようにものづくりを続けてきたのか、その歴史と地域社会や産業界との繋がりを交えて作品写真と共にご紹介しました。
現代では、着物やスカーフなどの染織品を手掛ける千總ですが、創業した室町時代に僧侶の装束である法衣や寺院を荘厳する打敷などを納める法衣商であり、時代に応じて少しずつ商いの軸足を移してきました。
明治時代には、法衣の商いも継続しながら、友禅染や刺繍の技術を駆使した壁掛けや衝立という室内装飾品を手掛けるようになります。当時の日本画家に染織品の下絵を依頼し、絵画と見紛うような染織品を国内外の博覧会に出品し、高い評価を得ます。明治時代後半から昭和時代にかけては、百貨店の興隆とともに友禅染の着物も商いの中心となっていきました。
第二次世界大戦中は、技術も保存のための研究所を設立してものづくりを続けました。社会情勢が不安定になれば、多くの文化芸術が失われ、技術も継承できなくなります。幸いにも、千總は戦後も技術を繋ぎ、現在も様々な業界やアーティストとの協業も行っています。
講義の後半は、友禅染の製作工程の動画視聴と実物の染色品の観察を交えながら、千總の染織技術を紹介しました。
千總が手掛ける染織品には、手描き友禅、型友禅、色写一珍友禅、絞り、刺繍など多様な技法が製品の企画やテーマによって使い分けられています。いずれの技法も、図案から完成まで十〜数十に及ぶ工程があり、それぞれの技術を担う職人の分業により製作されています。それぞれの技術によって用いられる材料や道具、工程が異なり、高度な熟練を要します。
会場には、現代の千總の着物、友禅染の製作工程の見本、手描き友禅・手捺染・インクジェットプリントの染色見本などを展示しました。参加者の皆さんには、手に触れたり、着物を試着したりしながら、技法による表現の違いや素材の感触を確かめてもらいました。
参加者からは、「地域の気候によって、冬物と夏物の着物の着用時期に違いはあるのか」「技術によって、染料やその効果はどのように異なるのか」など、熱心な質問が寄せられました。
千總が手掛ける染織品とその技術は、日本の文化、社会との深い関わりの中で育まれたものであり、さまざまなデザインを生み出し、少しずつ形を変えながら受け継がれてきました。