産学連携事業:前期の絵刷調査の実施
当研究所では2021年度から株式会社千總(以下、千總)に寄贈された絵刷(えずり)の調査を、京都芸術大学歴史遺産学科との産学連携事業のもとに実施しています(事業の詳細はこちらをご覧ください)。
絵刷とは、型紙を用いて文様が紙に摺り出されたもので、型友禅をつくる工程において、職人による型紙の彫り具合(彫口)の確認や、型紙管理者の見本などの用途でもちいられるものです。本調査では、絵刷の撮影と調書作成を行い、最終的にはデジタルアーカイブ化を目指します。
本年度の前期調査は、6月23日から7月21日の毎週木曜日に実施されました。調査は正課授業の一環として行われ、同学科の増渕准教授率いる文化財科学ゼミに所属する学生5名と同大学院修士課程学生1名が参加しました。
本調査では、大学内での普段の講義とは異なり、実際の資料を取り扱いながら撮影を行います。そのために調査に先駆けて、担当の増渕先生が文化財の撮影に関する講義を実施し、当研究所の小田が絵刷の歴史的背景の解説および紙資料の取り扱い方法についての簡単な説明を行いました。その後は、2グループに分かれて、冊子に綴じられた絵刷の一枚一枚の撮影を進めていきました。
文化財の記録方法にはスケッチや動画撮影、スキャニングなど様々な方法がありますが、最もポピュラーな方法の1つが写真撮影です。本調査のように複数で構成される資料を長期間で撮影する場合は、ホワイトバランスやISO感度などのカメラの設定を撮影環境に合わせて調整し、予め確定しておく必要があります。そうした準備も先生方のサポートを受けながら、学生主体で行われました。さらに、資料がより見えやすい画像にするために、撮影時にはレフ板による資料の周囲に落ちる影の軽減や、メジャーの位置の調整などの工夫を重ねました。
限られた機材での撮影はとても大変だったと思いますが、学生さん方は試行錯誤しながら撮影を効率的に進めていきました。
本調査で撮影された絵刷の墨書などの分析は、後期調査で実施予定です。
多くの絵刷の裏面には、日付や人名などを含む墨書が記されています。撮影時に確認する限りでは、本調査で対象となった絵刷のうち、大半の裏面に大正年間の日付が記されています。他方で表面には、古典的な文様の絵刷がある一方で、現代の”かわいい”に通じるようなデフォルメをされた文様など、多種多様なデザインが摺り出されています。後期では、そうした絵刷表裏の情報を調書に記録し、体系的な整理を実施します。
今回の調査では、絵刷冊子のページを慎重にめくる学生さん方から時折、約100年前の絵刷に摺られたバラエティー豊かな文様に対して、感嘆の声が上がっていたことが非常に印象的でした。
こうした小さな感動の積み重ねが、将来の美術史や文化財の保存修復の専門家を志す上では、重要になるのかもしれません。
(文責:小田桃子)