3つの染色技法の比較ワークショップ

函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、伝統的染織技術の背景にある、人の創造性・探究性に焦点を当てた2つのワークショップを設計しました。

 

1月24日は、手描き友禅・手捺染・インクジェットプリントの3つの技法の比較検証です。

 千總製の〈束ね熨斗模様小袱紗〉を元に、手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントとの3つの染色技術で、同じデザインを再現した染織品を製作しました。

 

手描き友禅は、細い筒金の先から絞り出した糊で模様の輪郭線を防染し、輪郭の中の色を筆や刷毛を用いて染色します。

 

手捺染は、色ごとに型(シルクスクリーン)を作成し、型の上から糊を混ぜた染料をヘラ(スキージ)で引いて染色を施し、1枚ずつ型を重ねることで模様を表します。

 

インクジェットプリントは、コンピューター上でデータ化した色と模様を、テキスタイルに適したインクが搭載されたプリンターで染色を施します。

 

 

学生は、どの染織品がどの技法を用いたものか情報を開示されない状態で、それぞれを観察し、特徴を書き出しました。そのあと、それぞれの技術を担った方々へのインタビュー動画の視聴し、技術の特徴や違いを検証しました。

 

《製作記録動画〈手描き友禅(色づくりと染色)〉》

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一点ものの商品に用いられることが多い手描き友禅では、商品企画者が商品に合わせて一から色を決め、色見本裂を貼りつけた「配色伝票」を作ります。染色を担う職人は「配色伝票」を元に1色ずつ染料を混ぜ合わせて色を作ります。

(今回は、既製品である〈束ね熨斗模様小袱紗〉の色を元に染料を合わせました。)

 

*職人の紹介と編集こぼれ話はこちら

 

 

《製作記録動画「手捺染(色づくりと染色)」》

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型を用いることで同じ製品を数多く作ることができる手捺染では、企画商品の図案を元に、何度か染色の試験を行い、それぞれの色の染料の配合を記したレシピを予め用意します。

(今回は、〈束ね熨斗模様小袱紗〉の既存のレシピから染料を作りました。)

 

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《製作記録動画「インクジェットプリント(色づくり・色データ作成・染色)」》

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インクジェットプリントでは、企画商品(またはそのデザインデータ)をもとに、使用する色の明度、彩度、色相などの数値に幅を持たせたカラーチャートをコンピューター上で作成し、企画商品と同じ生地にプリントします。プリントされたカラーチャートから、最適な色を選び、色のデータを作成します。

(今回は、〈束ね熨斗模様小帛紗〉の既存のデザインデータをベースに、実物の色を参考にしながらカラーチャートを作成しました。)

 

*技術者の紹介と編集こぼれ話はこちら

 

 

インタビューでは、手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントの技術の中で、色の作り方、色の捉え方に焦点を当てました。

 

どのような考え方で、どのように色(染料)を作っているのかを、技術や技法の特性を踏まえて解説頂きました。そこには、それぞれの技術の特性を活かし、染織品を最大限美しいものにするための創造性が凝縮されていました。

 学生からは「手描き友禅は細かい味があった。色が重ねられている感じがした。」「手捺染は模様の輪郭線が均一であった。」「インクジェットプリントは、色の発色が他とは明らかに違う感じがした」といった観察の結果が寄せられました。

人の手による伝統的な染織技術と機械による染織技術の違いを、実物に触れ学ぶことを通して、人の感性や英知を観察する力を育むことをねらいとしました。

 

(手描き友禅、手捺染、インクジェットプリントによる染織品の製作手順および染色に関する見解は、株式会社千總ならびに今回製作をご担当いただいた職人・技術者個人のものです。同種の技術でも事業社ならびに職人・技術者により製作手順および染色に関する見解が異なる場合があります。)

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動画制作

撮影・編集:西村幸洋、時岡寛、野田明範

協力:株式会社千總

企画・監修:一般社団法人千總文化研究所・京都歴史文化施設クラスター実行委員会

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本事業は文化庁令和3年度の文化庁補助金「地域と共働した博物館創造活動支援事業」(主催:京都歴史文化施設クラスター実行委員会)、JSPS科研費20K02899の助成もと実施されました。

 

千總文化研究所Webサイト内関連ページ:「無形文化財ー染め」