Visible Thinking 着物から何を感じる?
函館工業高等専門学校の下郡啓夫教授と共同開発を行なっている教育プログラムでは、伝統文化を主体的に捉え、深く考察する手法の一つとして,ハーバード大学教育大学院のプロジェクト「プロジェクト・ゼロ」で研究された学習法である「Visible Thinking」を取り入れています。
第2講から第4講では,思考ルーチン「See-Think-Wonder」を用いて,着物の写真をさまざまな視点から捉えるだけでなく、そこから沸き出る自身の考えを批判的に見ることで、本質を見抜いていく、そのための基本姿勢づくりを行ってきました。
プログラム第5講では、その基本姿勢の土台の上に、いよいよ着物を本格的に味わう授業に入りました。具体的には、現在の着物を実際に触れ、その行為から得た内容を思考ルーチン「Color, Shape, Line」を用いて整理し、着物のもつ奥深さを堪能するというものです。
そのため、第4講までは京都からオンラインで授業参加をしていましたが、本授業では着物を持参して、参観いたしました。
授業に参加している、当校の5年間の教育を終えた専攻科の学生約20名は、事前に基礎知識となる講義は行わず、株式会社千總が手がけた振袖3点に触れてもらいました。着物に関する専攻知識が、学生のみなさんが五感で着物を感じる上で障壁となりうるからです。
実際振袖に触れた後、そこに表現されている色の名前や数、文様の形や線のつながりを次々と言葉にし、ワークシートに記述しました。記述後、その内容をクラス全体にフィードバックしましたが、そのことで、自身とは違うものの見方に触れることで、振袖を捉える行為にますます興味関心を覚えたようです。改めて触りに行ったり、得た情報から振袖が示す世界観をさらに掘り下げようとしたりしていました。
これは、本物の着物がもつ力により、これまで単に「成人式に着たりする衣服」に過ぎなかったものからより身近なものへ、また着物について考えることが「自分ごと」になったのだと思います。
その効果は、本授業の最後に「着物のデザインとして、こんなものがあったら面白そうといったアイデアを書いてください」という問いを学生のみなさんに考えてもらったのですが、既成概念にとらわれない自由な発想がさまざま寄せられるまでに及んでいました。
本事業は文化庁令和3年度の文化庁補助金「地域と共働した博物館創造活動支援事業」(主催:京都歴史文化施設クラスター実行委員会)、JSPS科研費20K02899の助成もと実施されました。
本プログラムについては、こちらをご覧ください。