京都芸術大学・共同研究事業ー後期の調査実習がはじまりました
今年度から、千總文化研究所は京都芸術大学歴史遺産学科と覚書を結び、型友禅に関する近現代史料である、絵刷(えずり)の共同調査を開始しました。本調査は、千總が所蔵する絵刷の画像撮影と調書作成を行い、最終的にはデジタルアーカイブ化を目指すものです。
弊所指導のもとに、同大学歴史遺産学科の増渕麻里耶准教授率いる文化財科学ゼミ所属の学生が、実際の資料に触れながら、正課授業の一環として調査を行っています。
(共同研究事業の詳細は過去の活動報告でご確認いただけます)
さて、11月4日より後期調査実習が始まりました。後期からは、前期の3回生9名に加えて、2回生9名が調査に加わっています。
後期では、学生を2つのグループに分けて、それぞれ資料撮影実習と調書作成実習を行っています。
資料撮影グループは、前期に引き続き、絵刷冊子に綴じられている絵刷の表裏を撮影しています。後期では、墨書や文様をもとに新たに選別された3冊の絵刷冊子を調査の対象としています。
一方、調書作成グループは、前期に撮影された3冊の絵刷冊子を対象に、墨書や資料の状態を記録する作業を進めています。学生たちは、事前に撮影画像をもとに調書作成を行っており、今回の調査では、画像で判断できなかった点を観察しています。例えば、見えない部分の墨書、ならびに絵刷の寸法や紙、色材などの材料の状態、また汚れや破れなどの損傷の状態など、実際の資料を見なければわからないことを後期の調査で確認し、調書に記入しています。
今回の調書作成対象としたのは、絵刷冊子3冊335紙のうち、墨書の情報をもとに選別された147紙です。学生たちは実習が始まるまでに、この147冊に記された墨書の翻刻*を行いました。それにより、絵刷の墨書には、最大で6~7種類の情報が記されていることがわかってきました。それは、①彫り手の氏名、②図案の考案者、③年月日、④工場名、⑤模様名称、⑥注文主または用途(百貨店の催事など)、⑦彫替(再度彫ったもの)です。
今回の調査対象である絵刷には、明治40年代から大正時代の年代が記されていました。また、三越や髙島屋、そごうなどの百貨店の注文である旨や、東京・大阪など地域に関する記述が確認できました。明治・大正期における、千總の型友禅染の商売や活動の全容は未だ明らかにされていませんが、こうした絵刷資料によって、少しでも実態を掴むことを今後目指します。
そして、11月18日の授業では、千總ギャラリーで開催されていた「歩み始めた図案」展を、株式会社千總の担当学芸員解説のもとに見学しました。同展では千總所蔵の友禅染軸が一堂に展示されており、絵刷工程を経る型友禅染についての理解を深めました。
前期では、初めての作業に戸惑う場面が多くみられましたが、後期では3回生が2回生をリードすることで、調査が円滑に進められています。12月以降も引き続き実習を行ってまいります。
*翻刻とは、くずし字で記されている文章を活字化することを意味します