特別鑑賞会・講演会 「千總と春日大社―千切台がむすぶ縁―」千總コレクションと共に、日本文化の未来を考える 第2回

特別鑑賞会・講演会「千總と春日大社―千切台がむすぶ縁―」

千總コレクションと共に、日本文化の未来を考える第2回

 

講師 岡本彰夫

日時 2017年12月15日(金) 午後3時~午後4時半

場所 千總本社ビル5階ホール

 

 

 

千總が暖簾に掲げる「千切紋」は、奈良・春日大社に由来します。

千總の遠祖は、宮大工として春日大社に仕え、「若宮おん祭」に供される「千切台」を奉納していました。その故事に因み、室町時代に京都で法衣商を始めるにあたって、千切台を商標とし、屋号を千切屋とし、家紋を橘としたのです。

2015年まで権宮司として春日大社に奉職され「若宮おん祭」の古儀の再興にご尽力された岡本彰夫先生を迎え、伝統を守ること、儀礼や技術を伝承することについてご講演いただきました

後藤田南渓「千切花の図」(1855年)

 

 

奈良と京都のつながり

奈良は日本の権威の場所。現在も毎年続いている摂関家藤原氏の春日詣。

天皇陛下が参向される勅祭のなかで最も古いものが、加茂下上社の葵祭と岩清水八幡の岩清水祭、そして春日大社の春日祭です。平安時代から続く三大勅祭とも言われますが、一度も断絶したことがなく、さらに勅使が手ずから供物を献じられるのは春日祭のみです。都と適切な距離があったこともあり、争乱の影響を受けずに古儀典礼、細かな所作や作法も残っています。霊地・聖地として、古いものを固くなに守ってきました。岡本先生は、京都のことを考えるには奈良という奥座敷、南都を知ることでより深く理解できるといいます。

 

若宮おん祭とは?

春日大社は、境内で大宮と若宮に分かれています。大宮は、常陸(茨城県)の鹿嶋さん(武甕槌命)、下総(千葉県)の香取さん(経津主命)、大阪河内の枚岡さん(天児屋根命)で、合わせてお招きしてお祀りしています。若宮は、枚岡さん夫婦のお子様です。平安時代長承年間に長年にわたって大雨洪水が起こり、飢饉や疫病が蔓延したため、藤原忠通公が1135年に国難の救済を願い若宮をお祀りされました。すると長雨が止まったため、以来およそ880年にわたり途切れることなく五穀豊穣を願い盛大に執り行われているのが「若宮おん祭」です。

しかし、明治維新を境に規模は縮小されたため、江戸時代の最盛期に比べると、馬の数や流鏑馬の槍襖の数などは10分の1といいます。途絶えていた古儀もあり、岡本先生はその復興に数十年をかけて取り組まれました。

千切台 (1879年)

 

千切台をめぐって

江戸時代に出版された『春日大宮若宮御祭礼図』の中に千切台が描かれています。屏風の前に稚児が座り、田楽法師が能を舞っています。若宮おん祭の前日におこなわれる「装束賜り」という儀式の様子で、稚児の前に千切台が飾られます。脚のついた八角形が三つ繋がった台に菊、橘、梅などの造花が飾られたもので、祭りの威儀物の中でも大変珍しい形といいます。800年間毎年作られていたはずですが、奈良には一台も残されていません。

ところが、千總には明治時代に作られた千切台が遺されていました。春日大社に何度も下賜をお願いされて受け取ったものでした。いかに千總が千切台を大切に思い、後世に伝えようとしたかが分かります。

2015年に創業460年を迎えるにあたり、千總は改めて千切台を奉納しました。現在では、千切台を制作できる職人は日本に一人しかおられません。

岡本先生は、日本は技術の集合体でありながら、職人さんの社会的地位は往往にして低い。職人さんがいなかったら、伝統も何も守っていけない。そのことをもっと広く伝えなければならない。千切台の歴史がそれを物語っている、と締めくくられました。

 

 

千切台書付

千總に残された明治時代の千切台には、1通の手紙が添えてありました。奈良奉行所の橋本平三が日本画家の望月玉泉に宛てたものです。実はこの手紙が、奈良と京都の繋がり、歴史と文化の奥深さを示すものでした。それは一体ー?

◇本講演会の全文は、会員ページ内「発行物アーカイブ」にてご覧いただけます。

 

【講師】

岡本彰夫(おかもとあきお)

1954年奈良県生まれ。1977年國學院大学文学部神道科卒業後、春日大社へ奉職。2001年に権宮司となり、2015年まで同職。在任中には、恒例御神楽、式年遷宮諸神事、おんまつり等の旧儀再興、神饌や廃絶神楽の復興に尽力。国立奈良女子大学文学部非常勤講師や帝塚山大学非常勤講師、帝塚山大学特別客員教授、宇賀志屋文庫庫長などを歴任。現在、奈良県立大学客員教授。 主な著書に『神様が持たせてくれた弁当箱』(幻冬舎)『日本人だけが知っている神様にほめられる生き方』(幻冬舎)『大和古物散策』(ぺりかん社)などがある。

*講師のプロフィールは講演会当時のものです。

 

 

◇当サイト内「千總文化について」有形文化財ー「京都のまちと西村家」にて、千切台に関連する絵画作品を紹介しています。

https://icac.or.jp/public/culture/nishimura/#i02