型友禅の絵刷資料の調査

明治時代以降、西村總左衛門の商店は、型紙を用いて文様を染める「型友禅」による商品を製造する、代表的な会社のひとつでした。その当時の盛況ぶりを伝える資料のひとつとして、同社には型友禅の見本の布、すなわち「型友禅裂」が所蔵されています。明治6年から昭和10年代までに製造された型友禅裂は1000点にのぼり、これまで様々な専門家により調査研究が行われてきました。なお、個々の型友禅裂については、現在連載中のTHE KYOTOでも紹介しております。

 

そして、その他に、型友禅の製造に関係する資料として、「絵刷」(えずり)が、同じく所蔵されています。

Fig.1 

Fig.1 絵刷冊子の表紙(一例)

 

 

絵刷とは、型紙を用いてデザイン(文様)を紙に摺り出したものです。型友禅をつくる工程において、型紙の彫り具合や、デザインの内容を確認するために、絵刷は主に用いられてきました。

型友禅で1つのデザインを染めるためには、実は何十枚もの型紙が用いられます。例えば、赤色の背景に黒色の輪郭線のある青色の円を型友禅で染める場合は、おおまかに円形を染め残した赤色の背景の型紙、黒色の円状の線をあらわす型紙、青色の円を染め出す型紙の、3種類の型紙が必要です。しかし、型紙単独では完成したデザインを確認しにくいために、型紙に伴って絵刷が制作されていました。

 

Fig.2 絵刷の本紙(一例)

 

大変有難いことに、千總の関係する絵刷を含む関連資料群を近年ご寄贈いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。これまでに実施した調査の結果、資料群のうち約100枚の絵刷を綴じた冊子148冊を確認しました。絵刷の中には、先述の型友禅裂のデザインと近似しているものもあり、さらに各絵刷には年代・氏名・染色工程などを示す墨書や、様々な団体による印が捺されています。こうした絵刷は、近代京都の型友禅製造の実態の一例を示すものとして、さらなる詳細な調査が期待されます。

 

Fig.3 絵刷(左)と型友禅裂(右)のデザインの類似

 

  また現在、千總文化研究所では、京都芸術大学芸術学部歴史遺産学科と共同で、本絵刷の調査計画を進めています。詳細等が決定しましたら、会員の皆様に順次ご報告いたします。

本資料群を通して、京都の近代染織品に関する研究を進めるだけでなく、文化財保護や美術史などの専門家の育成・教育に貢献できるよう、充実した調査の実施を目指してまいります。