特別鑑賞会・講演会 「千總友禅―束熨斗文様振袖の復元製作をめぐって―」千總コレクションと共に、日本の未来を考える第3回
特別鑑賞会・講演会 「千總友禅―束熨斗文様振袖の復元製作をめぐって―」
千總コレクションと共に、日本の未来を考える第3回
講師 吉岡幸雄
日時 2018年4月25日(水) 午後1時半~午後3時
場所 千總本社ビル5階ホール
千總は、2015年から2017年にかけて江戸時代の友禅染の最高峰として重要文化財に指定されている「紋縮緬地熨斗文友禅染振袖」(友禅史会蔵)の復元製作を手がけました。*
現代とは絹や染料といった素材も技術も異なる江戸時代の衣装の復元は、各工程で様々な課題と向き合うものでした。その中で染色においては「染司よしおか」との共同で、すべて天然染料により細やかな文様表現と雅な色彩を再現しました。
5代染司よしおか当主の吉岡幸雄先生を講師に迎え、過去の技術を学ぶこと、美しいものを求めつづけることの大切さを染色における色の魅力とともにお話しいただきました。
重要文化財「紋縮緬地熨斗文友禅染振袖」 江戸時代中期
(友禅史会蔵)
友禅染とは?
江戸時代中期頃から発達した技法で、米糊を用いて文様の輪郭線を表し、文様の中に色を挿します。そうすることによって、文様の外には染料がはみ出しません。それまで植物染料による染色は浸染が中心でしたが、細かな文様を染め分けることができませんでした。友禅染の登場により、繊細な文様を多くの色を使って自由に表現することができるようになったのです。公家と武家に加えて、経済的に裕福となった町人たちの需要に呼応するように、種々の文様が生み出されました。
「友禅」という名前は、当時人気のあった宮崎友禅という扇絵師の名前に由来します。『源氏ひいなかた』に、「扇のみか小袖にもはやる友禅染」という一節があります。友禅染は、染色の技法と日本画の技法が合体したようなものと言って良いのではないか、と吉岡先生はいいます。
糸目糊置:米糊を用いて模様の輪郭線を防染する
挿友禅:防染を施した輪郭線の中に色を挿す
野村正治郎が遺したもの
「紋縮緬地熨斗文友禅染振袖」が、江戸時代からどのように伝来したのかは分かっていませんが、大正時代に本振袖を所有していたのは、目利きの古美術商として知られる野村正治郎でした。彼は、桃山時代から江戸時代の小袖を蒐集し、金地の屏風に貼り合わせた〈誰が袖図屏風〉を百隻ほど制作したことでも有名な人物です。現在、〈誰が袖図屏風〉は国立歴史民俗博物館に収蔵されています。
吉岡先生は、野村正治郎は膨大な日本の染織品の優品を蒐集し、後世の研究者に一つの基本を定義したと考えています。そうした先人の審美眼が、故きを温ね、新しいものを生み出していく力に繋がっているといいます。
色を復元すること
吉岡先生は、今回の製作において紅花を用いた浸染と友禅の文様の中に用いる色材を提供されましたが、紅花や藍から色を作ることは、現代においてはもはや再現、復元と言われます。
例えば、青を表すための藍蝋は藍の泡から作りますが、鮮烈で透明感のある色を作るのは非常に難しいといいます。臙脂色にいたっては、もはや作ることができず、残されているものを少しずつ大事に使っているそうです。
地色である紅色も、「束熨斗文様振袖」には素晴らしい赤が残っていて、江戸時代の染めの技術になかなか追いつけないといいます。
紅花染:振袖の熨斗の部分を帽子絞りで防染し、地の紅色を浸染
日本の工芸的技術は衰退の一途をたどっていますが、挑戦し続けること、そして今持っている技術を出し合って良いものを作り続けていきたい、と強い思いを語られました。
(復元)束熨斗文様振袖 2017年
会場には、京都国立博物館に寄託されている重要文化財「紋縮緬地熨斗文友禅染振袖」と復元品と2点並べての展示しました。
*メルコリゾーツ&エンターテイメントによる全国の着物産地の職人が最高級の着物を制作し公開する「着物×きもの×KIMONOプロジェクト」の一環として受注製作。
◇本講演会の全文は、会員ページ内「発行物アーカイブ」よりご覧いただけます。
【講師】
吉岡幸雄(よしおかさちお)
1946年京都生まれ、染色家。1971年早稲田大学第一文学部卒業後、1973年に美術工芸書出版社の紫紅社を設立。1987年生家の「染司よしおか」5代目を継承。植物染の第一人者として薬師寺、東大寺などの文化財の復元をはじめ、英国V&A博物館からの依頼で永久保存用「植物染めのシルク」の制作等を手掛ける。著書は『日本の色辞典』『王朝のかさね色辞典』(紫紅社)『千年の色 古き日本の美しさ』(PHP研究所)『日本の色を染める』(岩波新書)『色紀行 日本の美しい風景』(清流出版)など多数。
*講師のプロフィールは講演会当時のものです。
◇友禅染めについては、本サイト内「無形文化財ー染め」で解説しています。