美術染織品の興隆
The Rise of Ornamental Textile
概要Overview
美術染織品とは、鑑賞を目的とした絵画的な表現を持つ染織品です。12代西村總左衛門は画家と協働して、「刺繍」と「天鵞絨友禅」を製造し一世を風靡しました。特に刺繍製造は、博覧会等で度々審査員を任されるほどに、社会的認識あったことが伺えます。美術染織品は、宮内省(当時)への買い上げ、もしくは「S.Nishimura」や「Nishimura Sozayemon」の名での輸出など、国内外で受け入れられ、現在でも博物館施設に保管されています。ここでは実際の美術染織品と下絵をご紹介します。
Nishimura Sōzaemon XII collaborated with artists to create ornamental textile, i.e., textile products created for the purpose of being appreciated as works of art, in the same way as paintings. Embroidery works and birōdo (velvet) yūzen works proved to be widely successful. The embroidery works, particularly, gained social recognition to the point that Nishimura Sōzaemon XII was often summoned to act as jury in exhibitions and similar events. Ornamental textiles were coveted both nationally and internationally: they were acquired by the Imperial Household Ministry, and exported under the name “S. Nishimura” or “Nishimura Sozayemon”. Today, some of these ornamental textiles form part of museum collections. Actual ornamental textiles as well as preparatory sketches are shown here.
所蔵品の紹介
- 看板 S.Nishimura
- 天鵞絨友禅 富士に松図(裏面:刺繍 鴨に芦図)
- 月に髑髏 舞妓に桜
- 天鵞絨友禅 友禅張物図
- 刺繍 芦に千鳥
- 刺繍 孔雀図
- 天鵞絨友禅 元禄美人図
- 刺繍 芦に舟
- 下図 楊柳観音図
- 下図 虎と鷹図
- 下図 孔雀図1 および下図 孔雀図2
- 賞状 龍池会 銀牌
- 賞状 第3回五二会全国品評会 有功賞金牌
写真をクリックすると拡大表示します。
看板 S.Nishimura 額装1面 / ビロード地、友禅染 / 明治時代 / 79.5×108.0 (cm) 英語圏の顧客に向けて、天鵞絨友禅で制作された看板。文字の部分が輪奈切りされ、背景は輪奈のままで残されている。シンプルなデザインながら文字が際立って見える。天鵞絨友禅をまさに看板商品の1つとしていた、西村總左衛門の商店の活気が感じられる。 |
|
月に髑髏 舞妓に桜 下絵:岸竹堂、糊置き・染工:村上嘉兵衛、繍工:小林久治郎 / 掛軸 対幅 / 絹地、手描友禅、刺繍、金駒縫、描絵、金属泥 / 明治23(1890)年 / 各146.4×52.6 (cm) 頭蓋骨と舞妓という、異色の組み合わせの対幅である。月夜に浮かび上がる頭蓋骨とススキ、桜樹の下で艶やかな椿文様の振袖に身を包んだ舞妓が、それぞれ表されている。一見すると絵画のようだが、刺繍と友禅を駆使して作られた染織品である。頭蓋骨は、刺繍が丹念に重ねられ、解剖学に基づく立体的な骨の形状が浮かび上がっている。傍らの芒の穂はごく細い糸で縫われており、月光を受けて光っているようにも見える。一方、舞妓は、御髪から振袖まで、糸目友禅・色挿し・刺繍で丹念に表されている。帯には別布を貼り付ける「切符」と呼ばれる技法を施すことで、立体感や質感を再現している。下図は岸竹堂が手掛けており、本作の類似する舞妓のスケッチ(個人蔵)が現存している。また〈月に髑髏〉の月の表現は、竹堂の本画〈月下猫児図〉の月と技法的に共通するものがある。なお、本作の保存箱の蓋裏には、日出新聞の記者、金子静枝(1851-1909)が明治38(1905)年2月23日に祇園で記した墨書がある。その墨書には、岸竹堂が下絵を、村上嘉兵衛が糸目糊置きと染めを、小林久治郎が刺繍をそれぞれ担当したことなど、本作の制作背景が記されている。 |
---|
刺繍 芦に千鳥 屏風 四曲一隻 / 絹、刺繍 / 明治時代 / 174.0×260.8 (cm) 穏やかな月夜に、浜辺を進む3羽の千鳥と葦があらわされた刺繍屏風。千鳥と波や葦の組み合わせは、着物においても頻繁に用いられる。糸の脱落や裂けなどの損傷が目立つものの、糸の太さや重ね具合を使い分けて、鳥・葦・月・白波・岩などに個々の質感を持たせつつ、空と海が溶け合う夜の浜辺の空気感を表現した作品。 |
刺繍 孔雀図 額装1面 / 羽二重地、刺繍 / 明治時代末期(20世紀初頭) / 98.2×84.0 (cm) 地面をついばむ雌の孔雀を、桜樹から見つめる雄の孔雀を表した刺繍作品。甘撚りの杢糸(2色以上の糸を撚り合わせたもの)により絹糸の光沢が際立っている。岸駒筆〈孔雀図〉や、岸竹堂の手によるとされる各種の孔雀図下絵との、図様の共通点が多く見受けられる。 |
|
下図 孔雀図1 および下図 孔雀図2 掛軸各1幅 / 紙本墨画淡彩 / 明治15(1882)年頃 / 孔雀図1(上):182.3×97.0 (cm)、孔雀図2(下):160.0×88.5 (cm) 庚申薔薇の傍らの岩場に佇む雌雄の孔雀を描いた2種類の下図。華麗な尾羽を持つ孔雀は富貴を、また長春花と称される庚申薔薇は繁栄の意味を持つ。2つの下図とも、孔雀の体躯から脚にかけての微調整が重ねられている。さらに、孔雀図(2)には色の指示書きや尾羽の向きを補足した矢印などが追記され、試行錯誤の痕跡が見える。これらをもとに制作された刺繍作品が、明治15(1882)年に12代西村總左衛門の名で宮内省(当時)に買上げられ、現在でも宮内庁三の丸尚蔵館に〈塩瀬友禅に刺繍薔薇に孔雀図掛幅〉として所蔵されている。岸竹堂が本図の制作に関係したことが伝わっており、同様の下図がこの図以外にも描かれている。また本作品群との関連は定かでないが、竹堂の落款の入った同様の孔雀図(個人蔵)も存在している。 |
---|
関連記事
準備中